Journey of a office worker
「君はいち社員だろう?
うちの取引先と一線を越えるようなことをしてはいかん事を分からんのかね?」
「思いっきりやれと言ったのは貴方じゃないですか?」
なんて若い頃の口答えはしなかった。
オフィスを去る日ー
新宿・都庁近くの高層ビル街で炎天下の中僕はチューハイを飲んでいた。
入道雲と突き刺すような日差し、陽炎。
スーツの中は汗が滝のように流れていたが暑いという感覚すらなかった。
悔しさとやるせなさ、そして短い期間に築いてきた
ビジネスパーソンとの引き裂かれるような別れが受け容れられなかった。
貴方が居てくれたから楽しく、そして素晴らしいプロジェクトが成功させられた
本当に酷い人たちね。私たち絶対抗議するけど、でもそんな酷いオフィスに居る人ではないわ、ジョージ。
そう惜しんでくださった方
ジョージ、馬鹿になるんだ、ちっちゃい男で終わるんじゃないぞ、強い相手は大体つまらない奴らだ、そんな奴らに握りつぶされるより利用してやれ!
缶チューハイの缶を握りつぶすほどのやるせない想いをぐっと胸に秘め
温かい言葉と委託先から取り上げた数ヶ月分の生活費を持ってオフィスを去った。
sat Aug 8
僕は自宅のベットで寝転んで静かに天井を見上げていた。
さぁ、何やるかなぁ、、、
持て余した時間とささくれた心
もうお盆の帰省なんか飛行機もバスもいっぱいで今更席なんか取れないー
夕刻、テラスに実った獅子唐を収穫し、ストレートのウイスキーを火照る手で温めながら呑んでいると一枚のチケットが届いた。
そこには「瀬戸」という文字が書いてあった。
僕のふるさとを連想させる海の名前、播磨灘、太平洋、そして瀬戸内海
その寝台券だった。
個室だから飛行機と然程値段は変わらない。
しかし移動時間は10倍
だけど、こうして旅やblogを再開した時思った事
「どうせ死ぬんだったら好きな場所に行って好きな事をやって死ねばいい」
未だ見ぬ景色を見て、触れたことのないものに触れて、やりたかったことをやる
そうだ、故郷へ旅に出ようー
8月12日、サンライズ瀬戸号に乗って故郷へ旅をすることを決めた。
wed aug 12,10:00pm
東京駅
瀬戸は寝台特急の中でも車齢が若く、車内はビジネスホテルのような整然として落ち着いた雰囲気だった。
品川、横浜と都会の喧騒を足早に駆け抜け、熱海を出発した頃には何も見えず
浴衣を着た自分の姿が室内灯で窓ガラスに反射していた
漆黒の車窓にカーテンをかけ、駅弁を広げた。
今まで寝台特急に乗った時の目的地は札幌など、観光地が多かった。
でも、今夜は違う。
サンライズ瀬戸は故郷へと向かう列車だ。
いつも線路や空を飛ぶ飛行機を眺め、これに乗れば故郷に帰れるんだ
でも、もう少しだけ頑張ろうと自分を鼓舞してきた。
故郷行きのカタカタと揺れる車内で飲む日本酒の味はなんとも言えない切ない味がした。
東京を出る時の電話では、母も父もとても元気だった。
でも、人は少しづつ老いていく
不慮の事故だってある
この旅の旅費を貯金しておけば母の誕生日に少し気の利いたプレゼントでも贈れるかもしれない。
でも近年自分の失敗から学んだこと
この酒が苦い日が来るかもしれない。
病気・事故…無事を祈り手を合わせながらこの列車や飛行機に乗る日が来るかもしれない
その日がいつ来てもいいように、時間と出逢い、触れ合いを大切にしようと心に決めていた。
シャワーを浴びて、カーテンを開けて暫くすると列車は太陽が昇った瀬戸大橋にさしかかった。
ーSunrise of The Great Seto Bridgeー
瀬戸内海
穏やかな海ー小さな島々の間を行き交う貨物船ー
幼き頃から愛したこの風景、この風の薫り、そしてThe Great Seto Bridgeーその全てが響き合って故郷へと誘うーこの旅路が大好きだ。
沢山の帰省客を吐き出した後サンライズ瀬戸号は車庫へと帰って行った。
thu aug 13,7:30am
ターミナルらしくない喧騒感のないとても素敵な駅。
ここで僕はいつも頂くものがある。
「連絡船うどん」という讃岐うどんだ
まだ瀬戸大橋がなかった、僕が生まれた頃までは本州と四国は船でしか結ばれておらず
汽車で高松にたどり着くと人々はホームから桟橋を渡り宇高連絡船に乗り本州と行き来した、その船の中で食べるうどんがとても美味かったそうだ。
今はその名残を少しだけ残し高松駅の構内でひっそりと営業している。
関東の真っ黒の出汁に慣れていた舌は一瞬「白湯(さゆ)?」と思うほど味が薄く感じるが、食べ進めるごとにいりこ出汁の風味とほんの少し整えた正油と塩の味が舌と心に染みてくる
僕にとっての故郷の味ー
9:20am
「連絡船うどん」を頂き、故郷へ接続している特急うずしお号に乗り込み
終着の徳島駅を目指した。
実家に荷物を置き、友人と連絡を取り、両親は仕事に出かけていた。
束の間の一人の時間。
散歩を兼ねてスニーカーを履いてかつての通学路を走った
さつまいも畑の彼方に沈む夕映えがとても美しくて、思わず足を止めて何度もシャッターを切った
6:30pm
ランニングから戻り、シャワーを浴びた頃中学校の時からの親友、ダイスケから連絡が入る
「あと一時間位で着けるから、阿波踊り行こう!!」
一言で言うと人格者、とってもハートのあたたかいダイスケは僕が阿波踊りに行きたいと言っていたのを覚えてくれていた。
家庭も設けていて、仕事を忙しく終えたあと車を運転しての帰省
疲れている癖に楽しもうぜ!って童心に帰って共に踊った。
黄昏時のバーベキューパーティ
いつもの顔ぶれが集まっていた。
子供を連れている奴や奥さんと共に集まった奴、農家の社長になってる奴ー
スイカを割って、花火をして、また会おうな!ってね。
幸せな時間は瞬く間に過ぎ、東京へと帰る日、姉の車で駅まで送ってもらうことにした。
少し前まではね、見送ることがとても寂しかった。
でも今は見送られることがとても寂しい。
大切な人をその地へ残していくことがとても寂しいのだ。
mon aug 17,9:18am
特急列車「うずしお10号」は定刻で入線してきた。
姉と母は改札をくぐりホームまで見送りに来てくれた。
「何にもないけど、また帰っておいで。東京でダメになったら何時でも帰ってくるんよ」
発車ベルが鳴り、車掌さんの笛の音と共に列車のドアが閉まった
ゆっくりと走り出す列車
母は手を振り列車を追いかけてきた。
僕は窓の外を見ることが出来なかったー
男たるもの大切な日が来るまで泪を見せないと決めたから。
だから母の顔は見ず、心の中で精一杯ありがとうと叫んだ
列車は瀬戸大橋を渡り岡山駅に着いた
ここから先は長い長い旅路となる
新幹線でも、飛行機でも特急でもない鈍行列車の旅だ
名物を食べながら、なかなかやってこない列車を待ちながら
久しく会わない友人や先輩を訪ねながら
土砂降りの雨も束の間の夕映えも、窮屈な座席もー
全てが素敵な思い出になるんだ
悔いのない生き樣で
胸いっぱいの幸せを携えて
いつまで経ってもドリームジャーニーで。
ボンボヤージュ。
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Places visited : Tokyo-Takamatsu-Station;Tokushima-Station
Takamatsu City,Tokushima City,Okayama City,Kyoto City、Ogaki city
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Tokyo STN -Takamatsu STN Passenger Ticket 11,600 JPN
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