黄昏色の列車に乗って。

ー僕が旅を続ける理由ー

想い出のとなり

mon June 8,10:02pm

新宿駅西口

 

「クソッタレ!!」

 

息を切らした僕は急いで流れているタクシーを拾った。

格安バスのチケットをインターネットでたまたま見つけ、突然ではあったが帰省する事にしたのだが

 
肝心のバス乗り場を間違え、指定の場所に着いた2分前にバスは出発してしまっていた。
乗り遅れたバスを追いかけるために、東名高速をドライバー抱えてトバす羽目になってしまい
格安だった筈が結局JALのBusinessを使った方が安い程金を使ってしまった。
 
Tue,June 9,6:30am
どうにか辿り着いた田舎は、小雨が降る静かな朝だった。
嬉しそうな母
食卓にはダイエットをしていると何十回も伝えているにもかかわらず
僕の好きな干物や地魚の刺身、明太子が並んでいた。
 
実家の修繕は昔から僕の役目
ドアの建て付けやウッドデッキの張り替えなどノコギリとドリル片手に東京のマンションでは出来ない腕を振るった。
 
そして、この旅の大きな目的のひとつ
大切な先輩が命を授かった、その安産祈願だ。
先輩と出会ったのは僕が20歳の頃大学を中退し、家を飛び出して修行していた飲食店
 
いつも素敵な笑顔を絶やさない人だったが、その瞳がとても深く
後になって話してくれたのだが幼少期から今迄苦労ばかりの人生だったそうだ
 
そんな彼女とは、修行をした職場を離れて以来、大学に復学してからも、東京で会社を興してからも、連絡を頻繁に取る事はなかったが、いつも近くにいて心が繋がってる気がしていた。
 
10,6:30pm
小さなお守りを手渡し、またね!と見送ってくれた。
その顔はいつも以上に満面の笑みだった。
 
いつもだったら面倒だからとタクシーを拾うが、今日は少し懐かしい気分に浸りたく通学に使っていたバスに乗り徳島駅を目指した
 
四国三郎と呼ばれる徳島の大河に対面通行の小さなトラス橋がかかり、道路は夕暮れ時のにわかな渋滞が始まっていた。
 
もう一つ上流にかかるトラス橋には2両編成の列車がカタカタと走り、雨上がりの茜色の空に映えるその姿がとても綺麗だった
 
徳島駅の一つ前、昔の繁華街に近いバス停でバスを降り、今回の旅のもう一つの目的地へと向かった。
 
1980年代は栄えていただろうか、お遍路さんが止まっていただろう民宿や居酒屋の空き地が目立つその一画にある
創作料理と陶芸ギャラリー「八寸」
僕の15歳の頃からの行きつけのお店だ。
 
入り口には骨董品や僕の部屋にも飾ってあるお揃いのビリージョエルのレコード
 
7:30pm
ドアを開けると15年前と変わらない
「おぉ、ジョージ、えっとぶり」
白髪でスラッとした出で立ちの粋なマスターといつも気さくなママさんが迎えてくれた。
 
「えっとぶり」とは徳島の方言、”阿波弁”で「久しぶり!」の意だ。
この言葉を聞くと、なんとなく癒されるのが徳島人である。
 
エビスの瓶ビールを頂き、カウンターの前に整然と陳列されたレコード盤を
今日は何をリクエストしようかと眺めつつ
壁面に広がるマスターの陶芸作品を物色する。
 
ギャラリーでもあるので作品は販売してもらえるが、僕がいつも目をつけるのは値札のない作品、マスターお気に入りの非売品である。
心優しいマスターは結局いつも作品を分けてくださるのだが、、
 
ジョージ、これ欲しいん。。。」
 
時に、マスターには警戒されてしまうのである。
 
後で触れるが、この日もドラマがあった。
 
最初はカウンターに僕一人だけだったが、浴衣を着た紳士、外国人の女性、やたらと松田聖子のレコードをリクエストする酔っ払いのサラリーマングループ
レコードのボリュームも上がり、店内はにわかに活気づいた。
 
僕は浴衣を着た紳士に話しかけた。
 
「どちらからですか?」
 
「東京ですよ」
 
「奇遇ですね〜僕も東京でして」
 
「何を使って帰省されたんですか?」
 
「海部観光バスです。」
 
「えっ、僕も海部ですよ!いつお乗りになりました??」
 
「一昨日です」
 
「えっ、!私も一昨日です!でも乗り遅れちゃって・・」
 
「え!ドライバーが探し回ってたあの人もしかして!!」
 
「そうです!!それ僕だったんです」
 
「こんな奇遇あるんだね!ちなみに住んでるのは何処?」
 
「赤羽橋です。」
 
「え!バスに乗る前あそこの駅の近くの梅寿司で飲んでたよ!!」
 
普段はとなりに座った方と連絡先を交換しないのが僕の流儀だが、この紳士とは連絡先を交換した。
 
次の日紳士から入ったLINEの中に
「縁ーえにしーとは不思議なものですね」
とあった。
 
それだけではなかった。
カウンターの左隣に座っていた陽気な外国人の男性、僕が通っていた中学校のALTの先生だった。
 
東京に出て、腐る程物件を見て、目が回るほどの飲食店を視察して歩いた。
確かに行きつけはあるが、八寸のような”ーえにしー”を感じる店には未だに出逢えない。
 
姉がそそろ迎えに来ると車を出してくれていたのだが、僕にはマスターにどうしても言い出せないことがあった。
そう、また値札のない作品を見つけてしまったのだー
 
その作品は徳島では有名な¨ちくわトンネル¨と呼ばれる場所をマスターが何十年も前にモノクロで撮影し、中央付近をセピア加工しパネルにした作品だった。
¨ちくわトンネル¨とは、煉瓦造りの短いトンネルに
短い汽車が通過した時、食品の¨ちくわ¨に見えることから地元の人々がそう呼び出し、徳島県民なら誰もが知っているトンネルだ。
 
盛り上がるカウンター、もうすぐ車が到着してしまう。
 
僕は意を決してマスターを作品の前まで連れ出した
 
「マスター、これはマスターが大切にされているものですよね。。。」
 
「どしたん?欲しいんで?」
 
「はい!どうしても好きになってしまいました!!!」
 
マスターは一呼吸してパネルを壁から取り外し
 
「ええよ、これ、持って行き。」
 
僕は驚いた。まさか学生時代から大切にされているものを譲っていただけるなんて・・・
改めて意を決した僕は切り出した
 
「値段がつけられないのは承知ですがお幾ら、、」
 
マスターは何時ものおおらかな笑顔で
 
「これはええけん持って行き。東京で仕事頑張るんじょ。その時の出世払いでええけんな」
 
涙が溢れたー
 
1年前、仕事で騙され、病で倒れた時もこの場所で静かに時を過ごした。
 
帰省したら一番に
「先生(マスター)陶芸やらせてください!」
と寄ったのもこの場所ー
 
学生の頃好きな女の子を口説いたのも
 
一緒に商売をやろう!と握手をした仲間と乾杯をしたのもこの場所だった
 
僕はいつもワガママで生意気な客だったと思う。
 
でも僕の帰ってくる場所のひとつがマスターのお店だ。
 
 
今年還暦のマスター、僕が出世払い出来る日まで、いつまでも元気でいて欲しいと願いながらー
thu June 11,9:35pm
 
ドアマンに 
「高級な絵画なので丁重に扱ってください」
 
と嘘をついて宝物の写真をトランクに預けバスに乗り込んだー
 
 嘘じゃないか。僕にとってはRyan Mcginleyの作品よりお気に入りなんだから。
 
ろくにシートも倒れない 激安バスは満員の乗客を乗せて神戸淡路鳴門道・阪神高速
東京へ向け走り出した。
 
 
 
 
ー想い出のとなりには想い出の場所があり、想い出の曲があるー
 
 
 
 
僕の大好きな言葉。
 
 またひとつ、想い出と宝物を授かった旅だった。
 
 
 
ボンボヤージュ。
 
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