Sat,February 20,
慌ただしく働いて、気がついたら週末
流行りの
感染症で体調を崩してしまった僕はベッドに横たわり天井を見上げていた
時間は有限だから寝てる暇なんかない
だけど、脱力感と倦怠感で何もする気が起きない。
半分冷やかしで友人に電話した。
「あれある?」
「スイートですか?多分ありますよ」
「あります。いりますか?すぐ売れちゃうけどどうします?」
例えるならば、焼き芋屋さんのノリ。
恐ろしく有言実行な男。
NOと言う言葉を忘れ、冷やかしに少し後悔していた
プラズマには、たまたま「グリース」という映画のDVDを流していた。
そのワンシーンに使われていた曲のタイトルが思い出せなかった。
なんだっけ、なんだっけ
そうだ!
歌詞はなんだっけ。
あ、インストゥメンタルだ。
シアターにただひとり、ただひとり、、
スイートルームにただひとり、、
ははは、だめだ。
旅に出るかー
そんな不純な動機と高熱にうなされていた故、出発の2時間前まで悩んだが
既にカバンの中にはカメラと旅の手帳とアメニティが放り込んであった。
そんな自分に呆れながら
ロキソニンを倍量飲み、家を出た。
Sun,February 21,4:15PM
新婚旅行やフルムーンにもよく使われるメゾネットタイプのスイートルームは一人では勿体無いほど広く、そして整っていてた。
落ち着かない僕はおもむろに荷物を置き、2階のシャワールームで熱々のシャワーを浴びた
汗だくでメゾネット2階のリビングのソファーにどかっと座り、いつもは観ないテレビをつけ、缶ビールをあおった。
小洒落たウェルカムドリンクが運ばれてきたが、なんだかかしこまった感じが小っ恥ずかしく、ワインのボトルをアイスペールにグサッと差し込んで、車内販売で買った
缶チューハイを流し込んだ。
体温、39.2度。
自分の無計画さに呆れながら暮れ行く車窓を眺めていた。
注文したルームサービスをつつき、さっき雑にアイスペールで冷やしたワインのコルクを抜いた。
グラスにワインを注ぎ、時折通過する駅の明かりだけが差し込む漆黒の車窓を眺めていると
最近、ちょっとささくれてたなぁ
なんて、ふと心がため息を漏らした
そのまま僕はリビングルームで倒れるように眠りについてしまったー
Mon,February 22,
スッと白い光が差し込み目が覚めたら、そこはもう北の大地だった。
1階に降りてみると、ベットはメイキングされたままの真っ新の状態
アホだなぁ。。なんのためのスイートだよ、、と頭を掻きつつ、届けられた紅茶を飲みながらルームサービスの朝刊に目を通した。
車窓は一面の銀世界
パウダースノーを巻き上げながら疾走する列車ー
気づけばその美しい景色に釘付けになっていた。
心の病に倒れ、失った自分の心を探しに旅立った2014年の夏
最後まで友情を貫こうと決意し、裏切られた2014年秋ー車内で長い手紙を書いた
親友と共に、惜別と新たな旅立ちを祝った2015年晩冬
線路と並走している国道は日本一周の時軽トラを一人ふっ飛ばした夢の路ー
たくさんの、たくさんの、はち切れそうな想いを乗せていつも旅をしたこの鉄路
そして2016年の今日ー
今回がこの鉄路を走る
寝台列車での、最期の旅になる。
森町を出発した列車の車窓からは内浦湾が見えはじめた。
別れのさみしさを癒すように、そして自分の歩む道を照らすかの如く、朝の陽に照らされた
噴火湾は穏やかにキラキラと輝いていたー
11:20AM
札幌駅
デッキからホームに降り立つと、冷たい風がスイートルームとワインの酔いを醒ますようにふわっと吹き抜け、北のターミナル駅らしく、厚着をした人達が慌ただしく行き交っていた。
留置場へと向けて走り始めた「
カシオペア」に心の中で手を振り、小樽行きの列車に乗り換えた。
最近はご無沙汰だったが、いつも行く場所は同じ。
小樽にある行きつけの寿司屋で昼飯を食い、運河沿いを歩き、石狩湾を眺めまた札幌へー
4:30PM
高層ビルの展望室のソファーに座り、街並みを見下ろしながら静かに夕暮れを待った。
こんなにのんびりとしたのはいつぶりだろう。
”時間ではなく思考が止まる時”
これを人は癒しと言うのだろうー
ひらひらと舞い降りる雪と、遠く望む山々がにわかに茜色に染まった
大好きなテレビ塔が光を放ち
オレンジ色の街灯に、彼方まで続くテールランプの赤
そんな光たちに彩られた白い雪
好きだったレストランがなくなっていたり
昔手帳を買った本屋さんがコンビニに変わっていたり
流れる時とともに街も姿を変えるけれど
そんな過去に執着せず
今ここにある大好きなもの、空の高さ、風の香り、全てのものを胸に刻んで
明日はどんなことが起こるんだろうと、小さな希望を抱いて
未来へ向かって歩いてゆこうと
そう決意したー
10:15PM
寝台急行「
はまなす」は
宗谷本線から帰って来る列車を待って、20分遅れでホームを離れた
この列車とも今日でお別れだ。
人も街もモノも、永久に続くことはできない。
いつか終焉が訪れる
でも、なくなる故に愛しいという感情が生まれるし
その時がいつ来てもいいように
日々精一杯生きよう。
また戻りたい
大好きな街、北の都
ボンボヤージュ。