黄昏色の列車に乗って。

ー僕が旅を続ける理由ー

北紀行Ⅱ-Travel records of "the Great Bear"-vol.1

ℹ︎この記事は、2014年7月に執筆した旅行記を再掲載しております。

 

 

 

―旅に出ることにした

思い立ったのは数日前
友人から旅行券をプレゼントされたからだ。

ここ10か月ほどの間色々あって節制、節制、、、と思っていたが
部屋のリフォームをしたり、こうして旅に出ようと思案したり
不思議と思考は以前より前向きである。

経営者になると決め込んでいた日々、今よりもスケジュールは自由に組めた筈である。
しかし、実際の生活は忙しい振りをして、自分を脅迫していただけのように感じる。

午後7時 東京・上野駅

寝台特急北斗星」が大きなエンジン音を響かせながらホームに入ってきた。
電気機関車と客車の編成だが、電源車が懐かしいディーゼルのエキゾースト・ノートを
奏で、旅情を掻き立てる。

僕は大のディーゼル好きである。

ホームには沢山の人で溢れていた。
聞いたところによると、新幹線北海道延伸の影響で上野発の夜行列車がなくなるそうだ。
冷めた目でその「撮り鉄」と呼ばれる人たちをかき分け、列車に乗り込んだ。

友人から「プラチナチケットですよ」と手渡された切符の番号をもとに
部屋の扉を開けると無機質なベッドがふたつ並んでいた。
1人用の個室もあるそうだが、そのブームによって入手ができないらしい。


夕立ちの雨雫とカメラのフラッシュを浴びながら列車はゆっくりと上野駅のホームを離れた。

缶ビールと駅弁。
男の一人旅らしくタバコと週刊誌でも買おうかと思ったが、そうなりきれないのが何とも自分らしい。

「ラウンジカー」では老夫婦グループがテーブルに酒とつまみを広げて盛り上がっていた。
在りし日の連絡船を彷彿とさせる、何ともニッポンの旅らしい光景であった。

大宮…宇都宮と列車は北へとひた走る。

黒磯駅を出たあたりで、食堂車の席が空いた。
本来は予約制なのだが、無計画な私にぴったりの「パブタイム」と呼ばれる
予約しないで軽食を楽しめる時間である。

私は基本、一人が好きである。
食事も、ライヴレストランも旅も一人が一番落ち着く。

他人に気を遣うのが大の苦手であり、また

「ジョージさん、気が利くね」

と褒められるのが大嫌いだからだ。

テーブルに着くと、すぐに定年を迎えてるだろうか
初老の男性客が「こちらよろしいですか?」と向かいの席を指さした。

「ええ。」と一言応えると、男性は申し訳なさそうに私の向かいに腰を下ろした。
見渡すと食堂車は満席だった。

小さなテーブルで何も話さないのも逆に居心地が悪い。
「どちらからですか?」とありきたりな問いをすると
「福岡です」と男性は笑顔で答えた。

「私、福岡生まれなんです」と答えると会話が弾んだ。

会話の途中で口に運ぶのが申し訳ないと思ったのか、注文したビーフカレーに手を付けず
チーズの盛り合わせを嬉しそうに私におすそわけしてくれる男性。
お返しにとピッツァ・マルゲリータのワンピースをお皿に載せてあげると
申し訳なさそうにペコペコと頭を下げワインをすする男性。

屋台やラーメン屋、国道…同郷は話題が絶えない。
会話が嫌いだ嫌いだと言いながら一人になると、こんな他愛もない会話がとても嬉しいのである。

せわしないバッシング(下げ膳)の音で周囲を見渡すと、他の乗客は皆寝台車へと戻っていて
狭いテーブルに男二人・私たちだけ。広い食堂車を貸し切っていた。

ウエイターやシェフにも夜があるだろう、せっせと片づけをする姿に追い出されるように
「素敵な旅に」と空のグラスで乾杯して、食堂車「グランシャリオ」を後にした。

主要駅での客扱いを終えた寝台特急北斗星」は青函トンネルに向け
夜の津軽海峡線をひた走っていた。

幼き頃から憧れた寝台特急の個室だったが、一人の部屋は何故か人恋しくなる。
「ラウンジカー」を覗くと、老夫婦たちの「宴会」はお開きになっていてガランとしていた。
食堂車で出会った男性も、たくさんの乗客も引き波のように自室へもどり床についたのだろう。

貸し切り状態の「ラウンジカー」で一人いつものようにもの思いに耽った。
時折踏切のボヤんとしたあかりが流れていく暗闇の窓ガラスのサッシに
カツカツと指を鳴らして枕木の音と好きなRhythm&Bluesのリズムを重ね合わせる。

退屈しないようにと、いつもIpodには大好きなSoul MusicやRhythm&Bluesをパンパンに詰め込んで持ち歩いている。
イヤホンは自慢のアメリカ・JBL製。
しかし、いざ旅に出るとその土地の空気にまで音色を感じて
一度も利用しないことばかりだ。

カタカタと揺れる列車、車窓を流れ、去っていく暗闇

ああ、自分だけの時間だ。これが自分なんだと
誰にも見せない自分がここにいることを一人感じる。

夜汽車は長いトンネルへ
そして、北の大地へ―


soon.......

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