幸せのきっぷ。
2017 journey in late summer
抜けるような青空の下、僕は金比羅さんのふもとにいた
旅の途上、素敵な列車があると聞き、知人にチケットを手配してもらったからだ。
「そらの郷紀行」と題された気動車はJR四国が国鉄末期から導入した、キハ185系というそこそこ年季の入った車両だったが、近年のクルーズトレインブームにインスパイアされ、内外装共に手の込んだ改造が施された車両だ。
「四国まんなか千年ものがたり」と題されたキハ185系気動車は、琴平駅の一番ホームに丁寧なブレーキ操作で静かに入線してきた。
ラウンジで列車の到着を待っていた乗客は、列車の到着を告げるクルーに誘われ、アテンダントさんの挨拶と共に車内に乗り込んだ。
地元の木材や伝統工芸品をあしらった豪華な車内は、一昔前のバブルの香りのする「ジョイフルトレイン」とは一線を画していた。
周りは淑女の団体や家族連れ、カップルに鉄道マニアさん。
あぁ、いつもの場違いだな。。と半ば自分の運命を受け入れながら指定券に記された座席に座った。
この列車、巨体の女装家が某ゴールデンタイムの番組で取り上げたこともあり昨今はチケットが取りづらいらしい。
僕は幸い知人の厚意で確保した、進行方向に向かったゆったりとした窓の大きな2名掛けの席
ありがたいなぁ、、と思いつつ、これから車窓を流れゆく風光明媚な吉野川や大歩危峡を想像していると列車はゆっくりと動き出した。
車内サービスのメニューブックを見ながら何を食べようかな、向かいの席にはだれか来るのかなー
出発前、チケットを手配してくれた友人が
「向かいの席、素敵な女性でも座ればいいですねー」
なんて冗談を言われたことを、低脳な僕は淡い期待を抱きつつ、車窓を眺めていた。
そしたら、起こったーーー
僕の前の席をめがけて歩いてくる女性、20代中盤くらい、すらっとした出で立ちの美しい女性。少し困ったような表情をしていて、その表情すらもとても素敵だった。
ただじろじろ見るのも変態のようなので目をそらしていると彼女は僕に
話しかけてきた。。。
来た。
これって!!!!!
「あの、すいません。こちらのお席の方ですか?」
ん?
はやる気持ちを抑え、静かな声で僕は
「ええ。こんにちは」
と答えた。
彼女は少し申し訳なさそうな顔で続けた
「こんにちは。あの、私たち2人で旅行に来ているのですが、席がバラバラになちゃいまして。。無理は承知なのですがお席を譲っていただけないかと思いまして、、」
はぁ。
世の中甘くないのね。でも1名掛けでも展望席とか、良い席なら代わってあげてもいいや、と思い彼女に返した
「そうですか、デートなんですね。ちなみにその離れたお席は何処ですか?」
彼女は言いづらそうに
「あそこです」
と指さした。
その席に目をやるとおしゃれをした彼氏らしき紳士が肩身狭そうに座っていた
そう。その席はオタク席。
彼は両端を鉄道マニアに挟まれて、彼女とも当然会話すらままならない。
彼女は
「やっぱ無理ですよね。すいません旅の邪魔してしまいまして」
と言い残して彼のそばに行ったり車内を落ちつかない様子でうろうろしていた。
僕は悩んだ。
今座っている席は知人が苦労して取ってくれた特等席
交換したら鉄ちゃんに囲まれてのむさ苦しい旅になるだろう
だけどなー
うーん。。
でも経営や旅をしていて気づいたこと
思ったことはすぐにやっちゃえばいい。
直感を信じること
自分がここまで経営や旅を続けられていることはたくさんの人たちに助けられ、支えられ許されてきたことー
だったら答えは決まっているじゃないか!
車内を相変わらずうろうろとしている彼女が僕の席の横を通ろうとしたとき、僕は彼女に話しかけたー
「あの、すいません」
「あ!はい。」
「あの、よかったら僕のこの切符と貴方の彼が持っている切符交換してくれませんか?」
彼女は驚いた様子で
「え??どういうことですか」
僕は
「僕、恋愛成就のお守り探してたとこなんです。彼女と別れちゃったもんでね。ハハハ!なんで、僕の席と切符差し上げますから彼のきっぷください!お守りにさせてもらいます。いいでしょ!?」
彼女は戸惑い、ひと時の間言葉を発しなかった
「…本当にいいんですか??苦労されて取られた切符じゃないんですか」
「いいじゃないですか!羨ましいです。こんな素敵な列車でデートできるなんて。早く二人で向かい合わせで座って楽しんで!そのかわり切符くださいね!ぼくもいつか彼女とこの列車で旅したいんで!」
涙ぐんだ彼女はありがとうございますと何度も僕に礼を言い、喜んで彼を迎えに行ったー
そして切符を交換した後、僕はマニアさんの仲間入をしたのでした笑
列車は讃岐平野を走り抜き、山岳区間に差しかかろうとしていて、車内は食事を楽しむ時間が近づいていた
食事やドリンクの注文を取り始めたアテンダントさんが僕に話しかけてきたー
「あちら(さっきのカップル)のお客様がお席を譲ってくださったお礼にお客様に何かご馳走したいと申されています。軽食でも結構ですし、お礼がしたいと強いご要望を頂戴しておりますので、フルコースのお料理も特別にご用意させていただけます。お好きなものをおっしゃっていただけませんか」と。
僕は
「その気持ちがうれしいです。その気遣いだけでおなかいっぱいだから。お二人にありがとう、ご馳走様と伝えてください」
そうアテンダントさんにお願いした。
ん?
このセリフ、どっかで聞いたことあるぞ???
そうなんです。
あの日出会った人のセリフを丸パクリ笑。
日本一周旅行の途上、鳥取県境港のほど近くの海に魅せられ、砂浜にちょいと車をとめて休んで行くか、と海岸線から砂浜に車をゆっくりと侵入させたんです。
この時点でただの馬鹿。
ただ、僕のイメージは北陸の海岸を走る路線バスがあるくらいだからこの車でも慎重に進入すればOKだろうと安易な考だったのだが、案の定車のタイヤはフカフカの砂浜に一瞬で埋もれて亀になってしまった。
途方に暮れていた僕に近寄ってきたのは真っ黒に日焼けした恰幅の良い老人。
またいつもの「日本一周しとるんですか?」の質問かよ、、と質問を想定しながら怪訝そうな顔をして運転席の窓を開けて挨拶した。
開口一番、老紳士は
「ロープはあるのか?」
と僕に聞いた。
意味がわからず
「ロープって何ですか」
と答えてしまった。
老人はすかさず
「牽引のやつだよ。持ってるだろ。出せ。」
とぶっきらぼうに行って海の家の様な小屋に帰って行った。
いやいや、車で引っ張ろうったって、、
気持ちは嬉しいけど
そっちも埋まっちゃうから無理じゃん。。
と半ば老人の事を馬鹿にしつつ、好意を辞退しようと思いながらも牽引ロープを取り出した。
10分ほど経った時、目を疑った。
なんと、海の家の向こうからブルドーザーが轟音を上げながらゆっくりとこっちに向かってきている。
運転しているのはさっきの老人。
ロープを手渡したら、慣れた手つきで僕の軽トラとブルドーザーを繋いだら、ガクンと衝撃が走った一瞬の間に、ブルドーザーはヒョイと僕の軽トラをアスファルトの路上に引きずり戻した。
そしてロープを外した老人はそのままブルドーザーをUターンさせて帰ってしまった。
僕は砂浜に足を取られつつ咄嗟にブルドーザーを追いかけて
「本当にありがとうございます!!お名前と御連絡先を教えてください!!」
と言った。
老人は
「そこに書いとる。」
と、手書きの古びた看板を指差した。
そう、この老人は地元の地引網漁をしている会社のオーナーだったのだ。
僕はすぐに車を走らせ、それらしい菓子屋に向かい詰め合わせを作ってもらい再び老人の元を訪ねた。
「先程は本当にありがとうございました。何もお礼できませんがもしよろしければお茶請けにでも、、」
と菓子折りを差し出すと
「お礼に来てくれたんか?礼儀正しい青年じゃのう。わしは何もいらんよ、買って来てくれたの君が食べなさい。わしは気持ちだけで充分。ありがとう。ご馳走さん。気をつけてな!」
嬉しくて、暖かくて泣いた。
世の中捨てたもんじゃない。
人を見た目や自分の観念なんかで判断してはいけない。
そしてこの御恩はいつか誰かに何倍にして返してやる。
そう心に誓って旅を続けた。
だから、この切符はその老人からのギフトであり、僕からの恩返しだ。
幸せの連鎖
与えたわけじゃなくて、不思議な境遇によって与えられた幸せ
出逢いはタカラモノ。別れ際にはありがとうー
素敵なカップルさん、仲良くしてるかな。
journey.jたまにはかっこつけてもいいでしょ!
僕が旅に出る理由ー
ボンボヤージュ。